ハーレーサンタクラブ代表 冨田正美さん・「俺たちがやらなきゃ、誰がやる」(その2)

舐めてみなけりゃ、わからない 

 「お役所仕事」という言葉があります。多くの人が何らかの形で、そっけない対応に憤った体験があるはずです。公務員と言うと、どうしても「安定していてお気楽」「事なかれ主義」「前例主義」というイメージが拭えません。

 さて、「俺たちがやらなきゃ、誰がやる」(その1)で紹介した、「ハーレーサンタCLUB名古屋」の代表・冨田正美さんは公務員です。愛知県教育委員会に勤めています。公務員を取り巻く世間の眼は年々厳しくなり、管理が強化されて細かい人事制度も導入され「評価」が重んじられるようになってきたそうです。
 「評価」自体は良いことなのでしょう。しかし、そこに弊害も生まれ、評価されないような地味なことは自発的に関わらないという人が増えてきます。「もし、失敗したら・・・」と思うと挑戦ができなくなります。高い目標を掲げすぎて、もし達成できない場合、昇給や昇進に響くことになるからです。

 そんなジレンマの中で、冨田さんはある出来事に遭遇しました。阪神淡路大震災です。冨田さんはテレビ画面に映る悲惨な様子を、とても他人事とは思えませんでした。気が付くと、ホームセンターで生活物資を買い込み、バイクに乗せて神戸に向かっていました。そこには、すでに全国から集まったボランティアが大勢いました。現地で、多くの被災者から「ありがとう」と言われました。その時です。「人の役に立ちたい」「喜んでもらいたい」という気持ちが、働くことの原動力になると実感したのです。

 以来、冨田さんは「とにかく現場に飛び込む」ようになります。
 当時、いじめや不登校が話題になっていました。休日になると自ら「不登校の子を持つ親の会」や「中退した生徒の支援をする会」などの集会に参加しました。すると、「教育委員会が何しに来たんだ!」と罵声を浴びせられることもしばしば。「学校が悪いから、こうなるんだ」と文句を言われるのです。しかし、それにも懲りず何度も通ううちに、「あんたはちょっと違うな」と受け入れられるようになりました。
 冨田さんは言います。
「塩の辛さ、砂糖の甘さは学問では理解できない。でも舐めてみればすぐにわかります」
と。

 勤め先の名刺の他に、もう一枚個人の名刺を作り、さまざまな勉強会に出席するようになりました。職場以外の人脈もどんどん広がっていきます。「ハーレーサンタCLUB名古屋」はほんの一例。その他、キャリア教育推進活動、環境保護活動、バリアフリー活動、東日本大震災復興支援活動、身体障がい者、知的障がい者の支援活動、など・・・。
 さらに冨田さんは、「地域に飛び出す公務員ネットワーク」にも参加します。これは、公務員の仕事だけでなく、アフターファイブや休日にも地域の活動に参加し、地域おこしや社会貢献をどんどんやっていこう!という想いを持つ、全国の”地域に飛び出す公務員”がつながるネットワークです。公務員が役所での異動に関係なく継続的に地域活動に関わり、地域住民との人間関係を築いていき、一億総当事者”の社会づくりを目指しています。

 もちろん、業務時間中はしっかり仕事に打ち込み、早朝や夜間、休日までスケジュールはびっしりです。
 朝は定期的に、通勤途中の繁華街で下車し、ゴミ拾いをします。午前6時からの早朝勉強会に参加する日もあります。午後7時半くらいまで仕事場でさらに良い施策を講じることができないかを考えています。それ以後、さまざまな会に参加したり相談事に応じます。また、時間があるときには。帰宅途中に繁華街に立ち寄り、ホームレスの人たちに声を掛け、いつもカバンに入れているラーメンなどを個々に手渡します。毎晩、午前様になります。

 冨田さんは、「公務員」ではなく「向夢員」として、教育委員会で未来に向けて種を蒔く仕事を続けたいと言います。
 ちょっと待てよ・・・。「お役所仕事」という先入観で公務員を十把一からげで見ていた自分が恥ずかしくなりました。どんな仕事をしていても同じです。冨田さんのように頑張っている公務員が全国に大勢いるのです。
 冨田さんはさらに、
「「労働」を「牢働」から「朗働」に換え、「仕事」を「志事」に換えたいと思いながら働いています。人間は行動した後悔よりも行動しなかった後悔の方が大きい。お金にならないことをいかに多くするかで、人間の力量が決まると考えています。生きるということは、自分の中で死んでいくものを食い止めることでもあります」
とも。

 すべての働く人たちに伝えたい言葉です。