「日本一のおもてなし」目指して 第4話「一緒にランチしましょう」
第4話「一緒にランチしましょう」 赤塚直子
何が正しいのか、と訊かれたら、私の行動は今の時代において間違っているのかもしれません。でも、誰にどう思われようが自分で納得してやったことをお話します。
ある雨の降る日、家の近くの道端で保険証のような紙切れが落ちいているのを見つけました。とっさに、これを落とした人は困っているに違いない、と判断し拾いました。
手にしてよく見てみると「自立支援証」というもので、精神的に病んでいる人が持つものだとわかりました。住所と名前が書いてありましたが、電話番号が記載されていません。
受診している病院名が乗っていたので、そこに連絡を取りました。
「おたくの患者さんで、いま、青くなって探している人がいるかもしれないので、拾った人がいると教えてあげてください。これを病院に届けるかどうかご指示ください」
と。すると、意外な返事が・・・。
「こちらにそう言われても・・・。それは拾得物なので警察に届けて下さい」
え~!?
私は、何もその人の電話番号を教えて欲しいと言っているわけではないのです。個人情報が厳しく守られている世の中であることは重々承知しています。でも、どうにも納得ができません。
「警察に届けるよりも、少しでも早く困っているであろう方の手元にお届けできないかと思い、そちらの病院へ電話させていただいたのです。残念です」
そう言い、電話を切りました。
そして私は、雨に濡れてシワシワになっている「自立支援証」にドライヤーをかけて乾かして、直接、速達で送ることにして郵便局へ走りました。
そこに、こんな手紙を添えて。
「家の近くで拾いました。お困りかもしれないと思い、お送りします。これも何かのご縁でしょう。いつかお会いできたら嬉しいですね」
翌日、ご本人から電話が入りました。私がたまたま不在でしたので、伝言を聞きました。
「すごく大事なもので本当に助かったとお伝えください。でも、直接お礼を申し上げたいのでまたかけさせていただきます」
と。
しかし、それから一か月ほどが経っても、再び電話はありませんでした。拾った道を通りかかると、ふと思い出したりしました。
「まあ、一度電話をいただけたんだから、充分だ。元気ならいいけどなあ」
それからしばらくしてのことです。
その人から、宅配便が届きました。
菓子折りに手紙が添えられていました。かわいい便箋に丸っこい文字でこう書かれていました。
「体調が悪くなり、入退院を繰り返していました。一人暮らしで頼れる家族もなく、ずっと気になっていたのですが、お礼を申し上げるのが遅くなってしまいました」
私は、とても嬉しくてハガキを書きました。
「律儀にお便りを下さり、ありがとうございます。ご迷惑かもしれませんが、体調の良い日に出掛けませんか。春の風に背中を押してもらって。一緒にランチしましょう。急ぎませんので、気が向いたらでいいです」
そこに携帯電話の番号を書きました。
彼女の心にプッシュするには少し強すぎたかもしれません。でも、一人で淋しいとき、私のことを思い出して明るい光が射してくれたらいいなぁ、と願うばかりです。
こういう「おせっかい」は大好きです。勇気がいります。何かトラブルの種になってしまうこともありえるからです。でも、困っているとしたら、救いたい。それは誰もが思うことです。「親切」と「おせっかい」の境目は、限りなくグレーです。たくさんの「おせっかい」をした人だけが、その境目を知ることができます。だから・・・志賀内も懲りずに「おせっかい」をしています。