「日本一のおもてなし」目指して 第3話 四日市・柿安の「感動シート」 

すき焼きで有名な三重県の四日市柿安では、毎月一度、スタッフ全員から女将宛に「感動」した話を報告してもらっています。
○「自分の体験で、お客様に喜んでいただけたこと」
または、
○「普段の生活の中で、自分がお客様として、『ああ、いいサービスだな』と思ったこと」
 (レストランやホテル、電車などどこでも)
などのエピソードを「感動シート」という紙に書いて、ティッシュペーパーの空き箱で作った投函箱に入れてもらいます。

 その中から、志賀内の琴線に触れた「いい話」を紹介させていただきます。

(その1) 「一つ持ちます!」 料理長のKさん

 自宅の玄関を出たところ、少し前の方を年配の女性がゴミ袋を両手に歩いていました。かなり重そうです。
 その時でした。後ろから小走りに追い抜いて行った男子学生が、その女性に声を掛けました。
 「一つお持ちします!」
と。ゴミ袋をサッと受け取り、ゴミ置き場に駆けて行き、袋を置くと何事もなかったかのように去って行きました。自分が先にできなかったことで、恥ずかしさでいっぱいになりました。「今の若い者は」と言われる時代に、まだまだ大丈夫と思いました。この歳にして教えられることばかりです。

志賀内泰弘

「若い」ということは、「行動力」があるということなんですね。誰にも「気持ち」はある。でも、歳を重ねると、余計なことを考えてしまったりして、ついつい腰が重くなる。私自身も反省しきりです。

(その2) 「迷惑かけてすみませんでした」 スタッフWさん

 仕事の帰り道のことです。駐輪場の出入り口に男子高校生が5.6人座り込んでいるのが見えました。奥へ入れないので困りました。(ちょっとやばいな)と身構えつつも、「話し中、ちょっと悪いけど通してくれませんか?」と声を掛けました。すると、一人の子が立ちあがったのに続き、全員が立ってくれ、通ることができました。
 自転車を引いて、再び出入り口まで来たときのことです。その子たちが私を待っていてくれ、
 「迷惑かけてすみませんでした」
と、頭を下げてくれたのです。彼らの素直さに感動してしまいました。

志賀内泰弘

(その1)と同じように「若者たち」に対する先入観が発端になっています。白状してしまいますが、私も似たような経験があり、「見てくれ」で人を判断してはいけないと、つくづく考えさせられました。さて、もう一つ。「素直」ということの大切さも学びました。他人に指摘されると「ムッ!」とするものです。ましてや、なかなか頭は下げられません。ヤルネ~高校生!

(その3) 「紳士服売り場で」 スタッフSさん 

 デパートの紳士服売り場で、夫といくつか服を見た時のことです。店員さんとも30分くらい話をしましたが、なかなか決断することができず帰ることにしました。夫が、
 「いろいろ教えてくれたのにごめんね」
と言うと、その店員さんは、爽やかな笑顔で、
「僕もいろいろ話せて楽しかったです」
と答えてくれました。今度は、ぜひ、そこでスーツを買おうと夫と話をしつつ家路につきました。

志賀内泰弘

よくこんなことを言います。「買ってくれたお客様」より「買っていただけなかったお客様」を大切にしなさい。でも、それは、頭でわかっていても、できないものです。私も、その店員さんに会いたくなりました。