CS(お客さま満足度)世界№1の陰にあるもの(その2)・・・「振り返りをする」
「骨壺」のお話を伺って、「向井さん」という人物に興味が湧いてきました。そこで、不躾な質問を投げかけました。
「向井さんの『おせっかい』精神のルーツはどこにあるのでしょう?」
するとたいへん困り顔。
「別に私は、いつもの普通のことをしただけですから」
と言います。実は、私はこの答を聞き慣れていました。一流ホテルのコンシェルジュやデパートの接客の達人にインタビューする際、同じ返事が返ってくるからです。「デキル」人たちは、その行為が他人から見て「スゴイ」ものであったとしても、当の本人にとっては「ごく当たり前」のことなのです。だから、「いつもの普通」のことなのです。
それでもしつこく「教えてください」とお願いすると、「ひょっとしたら・・・」と記憶の糸をたどりながら訥々と話を始めました。
向井さんは以前、ANAテレマート(株)という会社の、国際線電話予約センターで働いていたそうです。その時のお話。
お客様からの電話を受け、「どこどこ行きの便」の予約を入れます。でも、それで仕事は終りではありません。例えば、車いすを利用されるお客様だとすると、決まってお尋ねすることがあるそうです。それは、
「ご自分で歩くことはできますか?」
「階段の上り下りはできますか?」
それにより、ロビーや機内、到着地でANAスタッフのお手伝いがどこまで必要か確認されています。
また、海外へ単身赴任中のお父さんに会いに行く、お子さんの一人旅の予約を受け付ける際には、
「お見送りの方のお名前と電話番号をお知らせください」
「お迎えの方のお名前と電話番号をお知らせください」
「お子様が話される言語をお知らせいただけますか?」
と尋ねます。単に、搭乗便の予約をパソコンに打ち込むだけが仕事ではないと言います。
その他、向井さんは最後に決まって、
「その他、ご不明な点やご要望はございませんか?」
と尋ねるようにしていたそうです。すると、「機内で薬を飲みたいので白湯を用意してほしい」とか、腰を痛めているので腰に当てるクッションがほしい」などのリクエストを頂きます。向井さんは、その要望の一つひとつをパソコンに記録して申し送りします。この当時からすでに、向井さんの「おせっかい」精神は健在だったわけです。
ところが、です。向井さんは「その後」が気になって気になって仕方がなかったといいます。もちろん、他の部署の仲間たちを信頼しています。でも、「あの車いすのお客様は、無事着いただろうか?」「お子さんは、お父さんに会えたろうか?」「あのお客様は機内で腰が痛くならなかったろうか?」となどと心配になってしまう。
電話だけではなく、直接お客様と接する仕事がしたい。予約センターでの経験を生かし、空港でお客様と接する仕事がしたいという想いが強くなり、今の会社に転職することにしたのだそうです。
でも、向井さんは「有難迷惑」の「おせっかい」人間ではありません。話は、それよりもまた以前に、伊丹空港で案内業務の派遣社員をしていた頃のことに遡ります。
ある日、たくさんの荷物を抱えた男性が目に止まりました。向井さんは何のためらいもなく駆け寄り、「お持ちしますね」と言い、一つの荷物を持って差し上げました。喜んでいただけると思いきや。「触るな!」というお叱りの言葉が飛んで来ました。よほど貴重な物が入っていたのでしょう。その時、向井さんは尊敬していた一人の先輩から諭されました。
「自分が良かれと思ったことでも、お客様が望んでいる事とは限らないのよ。そんな時、『振り返りをする』んです。今の行動をもう一度、振り返ってみなさい」
向井さんは、反省しました。もし、「お荷物をお持ちしましょうか?」と声掛けしていたら、ひょっとするとスムーズに受け入れて下さったかもしれない。それからというもの、常に向井さんは、「振り返りをする」ことを心掛けるようになったそうです。
それはけっして、「おせっかい」を止めるということではありません。たくさんの「おせっかい」をする中で何度も振り返る。それを繰り返すうちに、行き過ぎもせず不足もせず、お客様が心から望むことが経験の中から見えてくるのですね。
向井さんは、2017年セントレアのCSアワード年間グランプリとして表彰されました。
向井さんに、日頃一番に心掛けていることを尋ねました。すると即答されました。
「そうですね。一人ひとりのお客様のニーズに合わせ、何か出来ることはないか、プラスαの対応を心がけています」
今回は、たまたま向井さんのお話に過ぎません。CS世界№1に選ばれるということは、各セクションで働く人たちが、「プラスα」を心掛けて仕事をして来られた賜物なのだと確信しました。