きちんとしないと叱られるコンビニ

 ミニストップの本部に勤める友人・加納良記さんからこんな話を耳にしました。

 大阪に、「きちんとしないと叱られる」という噂のミニストップのお店があるというのです。
それはどんな「噂」かというと・・・。

 ミニストップではファーストフードを店内のテーブルで食べられるようになっています。そのテーブルに子供たちがゴミを散らかしっぱなしにしたり、足元に残したままで平気で帰って行こうとする。

 そんなとき、その店のオーナー店長の奥さん(60代でマネージャー)は、子供たちを呼び止めて、
「片づけなさい」
と言って叱るのだそうです。店内で騒いだりするときも、駐車場にたむろして、座り込んでいる中高生にも声を掛けて叱る。

 加納さんは、尋ねました。
「どんなふうに叱るんですか」
と。すると、こんな答えが返ってきました。

 「自分の子供と同じように、当たり前のことができるようにと注意したり、叱るようにしています。今の子供たちって、注意されるとか、叱られるとか、周りの大人から教わる経験値がすごく少ないように思うんです」

 なるほど・・・。そうかもしれません。大人は、子供にこう教えます。道で大人に声を掛けられても関わらないようにしなさい」と。誘拐や変質者から身を守るためには必要なことでしょう。そんな物騒な世の中だから、下手に他人の子供を注意しようものなら、変質者と間違われたり、モンスターペアレンツに文句を言われかねません。

 「叱り方のコツってあるのですか?」
と、聞いたそうです。すると、

 「目を見て本気で叱るんです。母親の目線で、自分の子供と思えばいくらでも叱れますよ」

 このマネージャーである奥さん、ただ叱るだけじゃありません。実に、人情があるのです。例えば、真夏に店の前で座り込んでいる子供がいると、

 「そこは暑いから、中に入りなさい」
と言って、椅子へ座らせて一緒に話をする。ゴミの片付けができない子には、ホウキとチリトリと渡して、

「自分のことは自分で始末しなさい」
と教える。店の中で大声で騒げば追い出すし、未成年がタバコを買いに来たら、説教もする。

 「怖くないですか」

 「全然!大丈夫。たしかに集団だと強がる子もいます。でも、個人個人は大人しい良い子です。みんなきちんと叱ると、わかってくれますよ」

 このお店は、オープンして10年が経つそうです。

 そんな「噂」が広まり、以前叱っていた常連のお客様が、その後輩たちに「ここのオバサンの言うことは聞け!」とまで言ってくれるようになったといいます。

 ある日のこと、近くのライバルのコンビニ店のオーナーさんが、突然やってきて、
 「教えてください・・・」
と言われたそうです。(なんだろう?)と戸惑っていると、
 「うちの店の周りには、子供たちがたむろして困っているのに、なぜ、おたくの店ではそういう子供たちがいないんでしょうか」
と言うのです。

 奥さんは、コンビニをオープンしたとき、「地域の子供たちが安心して買い物ができるお店、親も安心して子供に買い物に行かせられるお店」にしたいと目標を立てたそうです。それが10年かかって実現した。

 なんと、オープン当時に叱っていた中高生たちが、結婚して子供ができて、お父さん・お母さんになって二代、三代と家族連れでお店に来てくれるのだそうです。

 奥さんは言います。
「普通に接客しているだけですよ」
と。その普通という当たり前のレベルがなんと高いことか。そしてハートフルなんですね。

 加納さんに「お店の名前を教えてください」とお願いしたら、「それは内緒」と言われました。奥さんは謙虚で恥ずかしがり屋さんなのだそうです。せっかく私も一度訪ねて、叱ってもらおうと思ったのに・・・。