「初めてのおつかい」
家族みたいなドラッグストアの話(その1)
志賀内泰弘
ふと気づくと、50年以上住んでいる自宅の周りに、文房具屋さんが無くなっていました。ボールペンやノートくらいならコンビニで用が足ります。でも、スケッチブックとか万年筆は手に入りません。仕方なく都心の東急ハンズや丸善まで足を運ばなければなりません。同じように、八百屋さん、肉屋さん、金物屋さん、薬屋さんなども姿を消し、買い物と言えばスーパーマーケットへ行くことが当たり前になりました。
便利と言えば便利です。でも、一つ寂しいことも・・・。買い物をする際に会話が無くなったのです。幼い頃、母親のおつかいで近くの公設市場に出掛けると、「えらいねぇ、お母さんのおつかい?」などと、あちこちで声を掛けられました。学生になってからも、「おっ!久し振り、もう高校生か」などと。
便利さと引き換えに、何やら大切なものを失ったような気がするこの頃です。
さて、岐阜県大垣市の (株)ユタカファーマシー本社に、お客様から1通のメールが届きました。それは、こんな内容でした。
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お礼を申し上げたくてメールいたします。
私には、5歳の娘がいます。今日、「初めてのおつかい」に近くのドラックユタカ大垣南店にサランラップを買いに行かせましたところ、無事におつかいができ、とても満足した顔で帰ってきました。
娘が生まれた時から、ミルクにおむつと、いつもベビーカーを押して通っていたお店で、店員の方と顔見知りになりました。子供を連れていない日には、「今日はお子さんは?」と声を掛けていただいてして、本当に身近にお店です。
私たちが小さい頃は、近所の駄菓子屋さんに一人で買い物に出掛けたりしてお買物を覚えたものですが、今ではそういうお店もなく、来年小学校に上がる娘にどうやって一人で買い物をさせようかと悩んでいました。
そんな時、娘が昨日「わたし、ユタカに一人でおつかいに行くわ」と言い出し、今日思い切って「初めてのおつかい」に出したのです。
帰って来た娘に聞くと、店員さんに、「一人なの?」とか「保育園休みなの?」と声を掛けていただいたそうです。なんとラムネとアメを手にしていたので、娘に尋ねると店員さんにもらったと言います。「よくできましたね」というご褒美のようです。そのお心遣いが嬉しくて、本当にありがとうございます。
どうぞ、大垣南店の皆様によろしくお伝え下さいませ。
親子ともども、忘れられない出来事、そしてお店となりました。今、1歳の下の子も大きくなったら、ユタカさんで「おつかいデビュー」をさせたいと思っています。これからもますます素敵なお店になられますようお祈りしています。
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実はこのドラッグユタカさんは、岐阜県、滋賀県、京都府など8県下に150店舗以上のドラッグストアを展開しているチェーン店なのです。チェーン店というと、パッと頭に浮かぶのがマニュアルに基づくおざなりな接客です。早い、安い、便利を最優先にするために、全店統一した接客マニュアルを作るが普通です。
社長の羽田洋行さんに、その点を尋ねました。すると、
「うちはお客様とのコミュニケーションを大切にしています。そのため接客については各店舗、それぞれのスタッフに任せています。これは、その成果だと思います。その時に対応した店員に聞くと、『ああ、いつも母娘で来て下さっているなぁ』と顔を覚えていたと言うのです。だから「一人なの?」と自然に言葉が出たらしいのです」
ドラッグユタカでは、こんな話はごくごく普通にあるらしい。お店に届いたサンキューレターからいくつか紹介しましょう。
お米とかペットボトルとか、重い荷物はレジの店員さんが車まで運んでくれるのは当たり前。高齢のお客様が買った商品を「これから郵便局から知り合いに送りに行く」と言うと、「じゃあ代わりに入って来てあげる」と言われたとか。歩いて来たお客様の商品を家まで届けてくれたとか。はたまた、うちのお婆ちゃんが店員さんに悩み事を聞いてもらって喜んでいた・・・などなど。
それらは、もちろんマニュアルではないといいます。お客様に何をしたら喜んでいただけるか。それぞれのお店で、それぞれの店員が自分で考えて行動する。羽田社長さん自身も、お客様からの声を聞いて、初めて「こんなこともやっているのか」と知り、びっくりするそうです。
さて、面白い話が一つあります。
ドラッグユタカ大垣南店では、「そんなにお客様に喜んでいただけたなら」と、「初めてのおつかい」をイベントにしてしまったと言うのです。
幼いお子さんをお持ちの親御さんに呼びかけて、子供一人で「初めてのおつかい」に来ていただく。お店のスタッフが、子供一人ひとりに気遣いながら買い物の仕方を教えるのです。
なんて暖かいお店なんでしょう!
そう言えば、昔はみんなそうでした。地域の人たちが、一緒になって子育てをしていました。地域に愛されるお店が繁盛することを証明するような会社です。
「愛される理由(わけ)がここにある!」
家族みたいなドラッグストアの話(その2)
志賀内泰弘
今号の「心にビタミンいい話」は、二本立てです。
前ページで岐阜県大垣市に本社のあるドラッグユタカさんの「ちょっといい話」を紹介させていただきましたが、とてもとても2ページでは伝えきれないので、つづきのお話をお届けします。
ユタカさんの男性社員さんから、こんな話をお聞きしました。
「お客様が、お米や箱ごとのペットボトルを買われる際には、『お車までお持ちしましょうか?』と言ってはいけないんです」
何を言っているのかわからず、キョトンとしてしまいました。
「『お車までお持ちします』と言わなくてはダメなんです」
と。あ~ヤラレタ!そんな気分でした。「お持ちしましょうか?」と尋ねれば「いえいえ大丈夫です」と遠慮される方もあるでしょう。だから、おせっかいをする。レジはいつも二人体制。商品をレジ袋に詰めるスタッフがヘルプとして付いています。そのスタッフが車まで運ぶ時には、「お願いしま~す」と近くで棚の整理などをしているスタッフに声を掛けて応援に入ってもらうそうです。
そんなドラッグユタカさんでは、毎日のように様々なドラマが生まれます。
ドラッグユタカ笠寺店(名古屋市)でのこと。
一人の女性がレジに駆け込んできました。
「車のドアをロックしてしまったの!子供が中に・・・」
慌ててスタッフが飛んで行くと、車の中で赤ちゃんが泣いていました。お母さんもパニックに陥り泣き出しそうです。すぐにJAFに電話するも、到着するまでにかなりの時間がかかると言います。
「家に帰れば、合鍵があるかもしれない」
とお母さんから聞き、スタッフが車を出してご自宅まで走りました。往復30分。その間も赤ちゃんは泣きやみません。パートのスタッフが少しだけ空いていた窓から、「いい子だね~」などと声を掛けてあやします。
合鍵が見つかり、赤ちゃんはお母さんの胸に抱かれました。
ドラッグユタカの岐阜県のお店でのお話。
幼い男の子が、寂しげに店内を歩いていました。それを見たスタッフは、「どうしたん?」と声を掛けました。案の定、広い店内でお母さんとはぐれてしまったのでした。今にも泣き出しそうです。スタッフは「すぐに店内放送で迷子のご案内を・・・」と考えましたが思い留まりました。「一緒にお母さんを探そ!」。そう言って男の子の手を引き、店内をぐるぐると周ったのです。「お母さ~ん」「ああ、よかった。探してたのよ。ありがとうございます」。
このスタッフいわく、店内放送をかければ効率的ではあるけれど、お母さんが駆けつるまでの少しの間でも、子供にしたら不安に違いないと思ったとのこと。だから・・・手を引いて。やるじゃん!
次は男山店(奈良県)での出来事。
節分の日に小さな男の子が一人でやってきました。レジのスタッフに、「アメちょうだい」と言います。スタッフが首を傾げていると、手に持っていた塗り絵を差し出しました。そこには、鬼の絵がクレヨンできれいに塗られていました。 (え?うちの店で、こんなイベントやってたっけ?) よくよく、の塗り絵を見てみると、すぐ隣にあるコンビニの名前が書いてあり、「色を付けて持って来てね。アメちゃんをプレゼトします」と書かれてあったのでした。「ごめんね、この塗り絵はね・・・」と言い掛けたところで、近くにいた別のスタッフが、 「ありがとう!上手に塗れたねぇ、はい、どうぞ」と言い、別のイベントで余っていたアメをギュッと一掴み取り、その子に握らせました。男の子は大喜びで帰って行きました。
もう一つ、則武店(名古屋市)でのお話です。
お店の電話が鳴りました。「もしもし・・・」。なんだか様子がおかしい。声が小さくて聞き取りにくい。どうやら小さな女の子の様子。(いたずら電話かな?) 3分ほどして電話が切れました。しばらくして、またまた同じと思わる子供から電話。今度は、「お母さんがいない」と深刻な声で言います。「どうしたの?」「大丈夫?」と電話の相手をしていたら、「あ!お母さんが帰って来た!」と言い、電話が切れてしまいました。
またまた、しばらくして、その子のお母さんから電話がかかってきました。
「先ほどは申し訳ありませんでした。娘に『どこへ電話していたの?』と聞いたら『ドラッグユタカ』と言うではありませんか。私がちょっと留守にしている間、寂しくなっておたくへ電話したらしいんです。お忙しいのに相手をして下さってありがとうございました」
それを聞いて、電話を受けたスタッフはホッとしたそうです。後日、そのお母さんからお店に差し入れのお菓子が届いたそうです。
さて、いかがでしたか。これが150店舗以上もあるドラッグストアチェーン店のお話です。まるで、お客様とも、社員同士も家族みたいですね。心の栄養ドリンクも売っているのかもしれません。