何でこんなときに、仕事なんや!
ダスキン北野支店(福井県鯖江市)に勤めるNさんの話を耳にしました。
「3年前の秋、朝早い時間にかかってきた電話で起こされました。
久しぶりに実家へ帰省した弟からの電話でした。
『母ちゃんが死んでもた』
朝、起きると、冷たくなっていたというのです。隣に寝ていた父親も気づかぬまま。
その電話がかかってきたのは、ダスキンレンタルの仕事の真っ最中のことでした。
葬儀が終わり、再び仕事に戻りました。お客様のお宅へ自転車を漕ぎながら、涙がこぼれました。生前、母からの電話が何度もありました。でも、日々の忙しさもあり、充分に話を聴いてやれませんでした。
『ダスキンが忙しいから、ちゃんと話ができなかったので罰が当たったんだ』
と思いました』」
「ああ、私と同じだ」
と思い、身を切られるほど胸が苦しくなりました。
6年ほど前のことです。長い事臥せっていた父を看病していた母親が、看病疲れで倒れました。検査をすると、末期がんでした。私は妻と、両親の看病介護をしました。
当時、金融機関に勤めていました。次から次へと起きるトラブルを解決するのが私のポジションの役割でした。ストレスまみれの毎日。そこへ、国の検査が入りました。私がその対応窓口です。もう、仕事と看病介護の両立は限界でした。
そのうち、身体に変調が起きました。胃痛、膀胱炎、不整脈、・・・。元々、消化器系の持病を抱えており、体も心も悲鳴を上げていたのです。
そこへ、父親の担当医から電話がありました。
「病状を説明したいので、明日朝11時に来て下さい」
医師も仕事で言っていることはわかります。でも、私も仕事をしている。そうそう簡単に休めません。国の検査機関の担当者が泊りがけで来ており、私は四六時中、付き添わなくてはなりません。
「仕事なんかしてる場合じゃない」
そう思いました。なんとかちょっとだけ抜け出し、病室に行きました。すぐにトンボ返りしなくてはなりません。父が、酸素を鼻から入れたまま苦しげな声で言いました。
「泰弘、仕事は大丈夫なのか?」
嘘をついても、会社を休んで来ていることはわかります。いつも、いつも私の仕事のことを心配してくれていました。
何のために働いているのだろう?
そのことを突き詰めて考えるようになりました。まずはお金のため。そのお金で、自分が生活するため。そして家族を養うため。家族や自分に関わる人たちを幸せにするため。ところが、仕事のために、充分に両親を看病できない自分がいます。どちらも大事。だから、どっちも頑張る。でも、身体は一つしかありません。ジレンマに悩みました。
さて、ダスキン北野支店のNさんの話です。
仕事を再開して、お客様を訪ねて回りました。すると、休んでいた事情を知っている先々のお客様がこんなことを言って下さったのだと言います。
「大変やったなぁ」
「悲しいのは時間が経たな解決せんよ」
「がんばり」
悲しくて悲しくて、正直、「何でこんなときに、仕事なんや!」と思っていたそうです。泣きながら仕事をした。でも、そんなお客様の一言一言に支えられ励まれた。そして、少しずつ元気になり、
「お母さん、長い事、お疲れ様でした」
と言えるようになったそうです。
私も母が亡くなり、続いて父が亡くなった後、後悔の気持ちが津波のように押し寄せました。「もっともっと、してやれたのではないか」と。そんな時、妻が言葉をかけてくれました。
「あなたは、充分よくやったと思うよ」
「仕事と家族とどっちが大切か?」
それは、「お父さんとお母さんのどっちが大切か?」と尋ねるのと同じことだと思います。どっちも大切。人は仕事で学び、仕事から何かを得ます。単にお金をもらうだけのものではないことは明らかです。でも、普段はそのことに気付かない。ギリギリ頑張ると見えてくるものがあります。Nさんは、日頃の一生懸命の仕事ぶりから、よほどお客様の信頼を得ていたのでしょう。仕事は、辛いこともあるけれど、ときに、仕事に励まされることもある。ダスキンという仕事を通じて、お客様から元気をもらった。
Nさんのことが羨ましく思えました。