はじめてのお留守番

 テレビで、「はじめてのおつかい」というバラエティ番組があります。生まれて初めて、お母さんに頼まれてお使いに出掛ける幼い子供の様子を、隠しカメラで追ったドキュメンタリーです。

 よちよち歩きで交通量の多い交差点に差し掛かったりすると、ついつい、「おいおい、危ないぞ」とか、「あと少し、頑張れ!」と画面に向かって声をかけたくなります。

 さて、ダスキンでは、掃除道具のレンタルなどをしているお客様宛に、「喜びのタネまき新聞」という月刊紙を発行しています。
 その中に、「ほほえみのひろば」という読者の投稿コーナーがあります。ここに届いたお話を紹介させていただきます。

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 ちょうどトイレに入っていた時、玄関のチャイムが「ピンポーン」と鳴りました。
 取り込んでいた私は、「今は絶対ムリ!」と思いながら居留守を決め込もうと思っていました。

 しかし、「ピンポーン」ともう一度チャイムが鳴ったところで、奥の部屋にいた二歳の息子が、ドドーッと玄関に走って来る音が聞こえました。「出なこていいのよ」と思った時にはすでに遅く、息子は玄関のドアをガチャッと開けていました。玄関はトイレの真横にあります。私は出るに出られない。

 「こんにちは、ダスキンです。お母さんはいらっしゃいますか?」
 「うん。・・・おかあさーん」
 息子があちこち走り回って私を探している。どうしよう・・・と困っていると、息子がしょんぼりした様子で玄関に戻ってくる音が聞こえました。

 「お母さん・・・いない」
 「あぁ、そうなの。ちょっとお出掛けかな?一人でお留守番ね。えらいじゃないの。おりこうさんね」
 ダスキンの方の励ますような明るい声に、息子もだんだん元気づけられて、
 「うん、お留守番。大丈夫」
と嬉しそうな声で答えている。真横のトイレにいる私は、恥ずかしいやら、何だかおかしいやら・・・。

 ダスキンの方が、また息子に話しかけてくれている。
 「すごいね。えらいね。お母さんすぐに戻ると思うよ。また来るね。頑張ってね!」
 たくさんの励ましの声に、息子はすっかりご機嫌で、
 「ばいばい。またね。がんばる」
とダスキンの方を送り出していました。

 息子の「はじめてのおるすばん」は、ダスキンさんのおかげで、とも温かいものになりました。・・・もう十年以上も前の話なのですが、今でも時々思い出しては、笑ってしまいます。
 ダスキンさん、あの時は本当にありがとうございました。

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 まるで、目の前で起きていることのように、場面が思い浮かびます。
 なんとも微笑ましい。
 これは、なんと10年も前の出来事だといいます。それをこのお客様は、ずっと覚えていて下さった。お母さんの目の前なら、その子供に対して「おじょうず」を口にするのは当たり前。でも、そばで、お母さんが聞いていることを、このダスキンさんは知りません。それだけに、「すごいね。えらいね。お母さんすぐに戻ると思うよ。また来るね。頑張ってね!」という言葉は、本当の優しさからにじみ出てくるものなのでしょう。

 仕事を通じてのお付き合いかもしれませんが、そこには仕事を超えた心の交流がある。一期一会。
仕事の場でも、プライベートでも、一つひとつの出逢いを大切にしたいと思いました。