ありがとうプロジェクト・・・ダスキン松阪の試み

 サラリーマンをしていたことがあります。
好きで、その会社に入ったのにもかかわらず、
年を追うごとに、
「なぜ、自分はここで働いているんだろう」
と考えるようになりました。

「働くってどういうこと?」
と悶々とすることもありました。
人に会うたび、
「仕事は楽しいですか?」
と尋ねるのが口癖になりました。

 さて、おそうじ道具のレンタルで有名なダスキンの加盟店を経営する
(株)ダスキンマツザカ(三重県松阪市)の谷口宗治社長から、一冊のレポートをいただきました。

 ダスキンでは、各家庭におじゃまするお客様係のことをハーティさんと呼んでいるのですが、(株)ダスキンマツザカでは社内に「ありがとうプロジェクト推進委員会」という会を立ち上げ、ハーティさんに、

 「幸せのためのありがとう」

というエピソードを募りました。小さくてもホッとする「ありがとう」。でも、自分にとっては大きな意味のある「ありがとう」。冊子とはいっても分厚くて、一通り読むだけでもたいへんなほどの数の「ありがとう」が詰まっています。
その中から、いくつか紹介させていただきます。

ОTさん
「冷たい雨が降るレンタルの日、私が数件先をレンタルしていることがわかり玄関にストーブをおいて暖かくしてくれていました。体も心もポカポカになりとてもうれしかったです」

WYさん
「浄水器を使っていただいているお客様ですが、レンタルに行くといつもお茶やコーヒーを入れて下さいます。寒い時期には、心も体も暖まります」

ОTさん
「レンタル活動の時、一番下の子を連れて行っています。その子が仕事を手伝ってくれたとき、お客様から「上手にできるね」「お手伝い偉いね」と誉めていただけます。日頃、子供に対して怒ることが多いので、誉めていただけるお客様に「ありがとう」の気持ちでいっぱいです」

「働く」ということは、お金をいただくということです。そう簡単にお金がもらえるわけではありません。楽な仕事はないのです。辛いことがあっても、明日も仕事に行ける。そのパワーは、どこから出てくるのでしょうか。そう、お客様からの「ありがとう」という一言です。その「ありがとう」を期待して働いているわけではありません。だからこそ、ちょっと心が疲れたとき、「ありがとう」と言われると、たちまち元気になれます。
「なぜ、働くのだろう?」という一つの答が、ここにあります。

FHさん
「いつも夕方におじゃまするお客様があり、2~3歳くらいのお孫さんが2人います。私が「こんばんは、ダスキンです~」と言うと2人が走って出迎えてくれます。その子達が「ありがとう」と言ってくれる姿がとてもかわいく、いつも会えるのを楽しみにしています」

同じくFHさん
「私の車が庭に入ると、音だけで私だとわかるらしく、そのお客様の番犬は喜んで迎えてくれます。抱き上げると、顔から手からペロペロと舐められ歓迎を受けます。動物好きの私は「ありがとネ」と言って別れてきます」

 幼い子供や動物には、仕事のことはわかりません。ましてやお金のことなど。お金をいただくための仕事でおじゃましているのに、そんなにも好かれてしまうなんて、なんて素晴らしい人(ハーティさん)なんでしょう。人に好かれようと思うと、反対に敬遠されるものです。きっと、このハーティさん、仕事を博愛の精神で取り組んでいるに違いないと思いました。

HHさん
「道路に雑誌が散乱していました。最初は勇気が出ず、一度は通り過ぎたのですが、すぐに戻って回収しました。とても気持ちが良かったです。そんな私にありがとう」

MNさん
「弥生3月。あるお地蔵様の帽子とよだれかけを取り替える作業に偶然出会いました。
いつもと違う「素」のお地蔵様を見て、とても不思議な感じがしました。お世話をして下っている方がいたわけです。私も一緒にお地蔵様をゴシゴシと洗うことができ、心の中が浄化されたようでした。来春から、卒業、進級する子供たちの成長を見守ってゆけることが、ありがたいです」

 これらは、ダスキンのハーティさんの仕事とは何の関係もない出来事です。
たまたま、道端での出来事です。でも、私には関係ないことのようには思えません。
日頃、「おそうじ」に関わる仕事をしている。
そして、「おそうじ」に関わる仕事を通じて、お客様から「ありがとう」と喜んでもらっている。
 その二つが心の中に沁みついているから、日常生活の中でも、「社会の役に立つ」ために自然と身体が動いてしまうのだと思うのです。古来日本で、「仕事は傍を楽にする」と言われている由縁がここにある。そう確信します。