クレームとサンキュー

 ~ミスタードーナツのサンキュー・レターから~

 「プチ紳士・プチ淑女を探せ!」運動の月刊紙「プチ紳士からの手紙」やメルマガでは、ときおり企業さんに届いたサンキュー・レターを紹介しています。

 モスバーガー、ケンタッキー・フライドチキン、大丸、目黒雅叙園、セブン-イレブン・・・。それはけっして、その会社のPRをするのが目的ではありません。そのサンキュー・レターの中に、心温まるドラマがあるからです。

○「クレームは宝、サンキューも宝」

 よく、「クレームは宝」と言います。
 耳障りではありますが、お客様から届いたクレームを謙虚に受け止め、それを改善することで、より良いサービスを提供することに繋がります。また、きちんとクレームに対応できれば、反対にお客様の信用を得ることも可能です。
これはもう、企業では当たり前のことになっています。
でも、私は、サンキュー・レターも、これに劣らぬ宝物だと思っています。

 お客様の立場になって考えてみましょう。
 お店に買い物に出掛けて、何か不愉快な思いをした。その場では、我慢したけれど、どうにも腹が立っておさまらない。家に帰って、本社のお客様相談室へ電話をして怒りをぶちまける。これが多くの場合のクレームです。

 もちろん、その場で「店長を呼べ!」と言い、訴える場合もあるでしょう。

 これは、怒りや不満という「感情」によって怒る行動です。だから、す早い。すぐに行動に移します。だから、電話というケースが多いのです。最近では、固有名詞を出してブログに不満を書く人も多いようです。

 これに対して、サンキュー・レターは、手紙やメールが多いのが特徴です。

 「お宅のお店で、こんなサービスをしてくれた。ありがとう」
と、わざわざ書いてくれる。便箋やハガキに書き、わざわざ切手を貼り、ポストまで入れに行く。そう、「わざわざ」です。「クレーム」が速攻なのに対して、「サンキュー」はスローです。そんな手間をかけても、何の得にもなりません。「クレーム」だと、損を取り返したいという気持ちがあります。弁償とは思わなくても、一言詫びて欲しいという気持ちがあります。

 でも「サンキュー」は、感謝の気持ちを相手に届けたいという、ただそれだけ。その心を動かすのは、「感動」です。

 企業にとっては、圧倒的にクレームの方が多い。間違いなく、サンキューの数は少ない。よほど「感動」しないと手紙やメールを書いたりはしません。それだけに、サンキューにも価値があるのです。「どうしても、相手に伝えたい。ありがとうと言いたい」という強い気持ちが反映されたものだからです。

 つまり、クレームをするよりも、サンキューの気持ちを届ける方が、ずっとエネルギーが必要とされるのです。

 人は褒めると伸びます。
周りに褒められる人がいれば「私も頑張ろう」と思います。
「ああ、こうすればお客様に喜んでいただけるんだ」と気付きます。
その観点から、社内でサンキュー・レターを公開する企業が増えています。
表彰制度を設けている会社もあります。
クレーム対応が大切なことは当たり前ですが、もっともっとサンキューが注目されるといいなぁと思います。

本章では、ミスタードーナツ本社に届いた、サンキュー・メールを3つ紹介させていただきます。

○サンキュー・メール①
  「ご自宅に届けます」 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 イオン富士宮SCショップで、とても誠意ある親切な対応でしたので、連絡させていただきます。

 先日、エンゼルクリームを購入したところ、中のクリームが入っていませんでした。お店に電話させていただいたところ、豊田様が対応してくださいました。正直、私も「そのくらいのことで・・・」と電話するのも気が引けたのですが、ジャスコに頻繁に行くので、その時に『交換して頂けたら』と思い電話させていただきました。その対応内容は、私が一日中仕事で家にいないため、「近々店に伺います」というのに対し、「いらっしゃる時間にご自宅に届けます」と夜7時過ぎにわざわざ届けてくださいました。来る前にもお電話いただき、また、私の家が分かりにくく、迷われて暗い中、徒歩で探してくださいました。もちろん、お会いした時の対応も親切で、本当に気持ちの良い誠意あるご対応でした。我が家はミスタードーナツが大好きで、度々購入しているのですが、ますます好きになりました。届けていただいたドーナツも家族で美味しくいただきました。あまりに対応が素晴らしかったので、お礼が言いたくてこちらより連絡させていただきました。これからも、また買わせていただきます!!豊田様、お忙しい中、届けていただき、本当にありがとうございました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 商品にミスがあったとき、お客様の家まで届けるお店がどのくらいあるでしょうか。

 以前、ある書店チェーンで、何冊かの本とボールペンを買ったときのことです。
家に帰って、袋を開けると、ボールペンが入っていませんでした。すぐに電話をして、確認してもらうと、レジにボールペンが残っていたことがわかりました。

 「レジで預かっておきますから、いつでも取りに来てください」
と言われ、カチンときました。それ以後、その書店は利用しなくなりました。そして、しばらくして閉店しました。ちょっとイジワルですが、「ヤッパリなぁ」と思いました。そんな記憶がよみがえり、当たり前のことのようですが、イオン富士宮SCショップの対応が眩しく感じられました。

○サンキュー・メール②
  「センター、頑張ってください」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 私は、大田区の高校に通っている高校3年生です。よく大森駅前のミスドで受験勉強をしていたのですが、大森のミスドは勉強していても追い出されたりしなくて、とっても居心地が良かったです。私の友達や彼氏も大森のミスドを気に入っていて、よく通っていました。

 夕方くらいに行くと、よくいる男の店員さんが私の友達の中でもちょっと有名で、私たちが勉強している時に、おかわりに来てくれると、
「頑張ってください」
と声をかけてくれて、とても励みになりました。お店の空いている時には、私が、
「英語の和訳でわからないところがあるんです」
って言ったら、
「ちょっと見せてください」
と言って答えてくれたこともあります!
センター試験の直前に勉強を彼氏としに行ったときには、
「もうすぐセンターですね、頑張ってください」
って言ってくれたので、彼氏がふざけて、
「何が出ると思いますか?」
って聞いたら、政経の出そうなポイントを何個か教えてくださって、
センター試験には出なかったのですが、私大の入試で、そこがそのまま出たらしく、とても喜んでいました。

 おかげさまで、私たちは志望校に受かることができて、とてもお世話になったので、お礼が言いたくて2月の終わりくらいから何回か友達や彼氏とミスドに行った(今日も行きました!)のですが、最近、いらっしゃらないみたいなんです。
 私とは別に友達が行った日にもいなかったみたいなので、もしかしたら大学卒業などで、もう辞めてしまったのかな?と思い、せめて感謝の気持ちだけでも伝えていただきたくてメールしました。
 たまたま、私たちが行ったときにはいなかっただけらしいんですけど・・・お店の方に伝えていただくことはできますか?
直接、店員さんに言うのは恥ずかしいので(笑)、大森のミスドは、すごく居心地がいいお店ですから、これからも通いたいなぁと思います。よろしくお願いいたします。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ファーストフードでも、フランチャイズのお店でも、心が通うアットホームなお店にすることができるというお手本のようなお話ですね。物を売るのではなく、人の心を売るのだということを改めて思いました。

○サンキュー・メール③
  「3.11のドーナツ」

 今日は、3.11大震災の直後に、ミスタードーナツの本部に届いたメールです。
宮城県・古川駅前ショップでの出来事です。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 このたび、3月11日の東日本大震災においては、貴社のおかれましても、一部店舗において被災していらっしゃるのではないかとお察しいたします。
被災された方々、および貴社ご家族、関係者の皆様には心よりお見舞いを申し上げるとともに、日さ地の早期復旧を心よりお祈り申し上げます。
 さて、突然のメールにて大変申し訳ございません。また、連絡先が分からず、こちらからのご連絡お許しください。
今回、3月11日の東北大震災にて宮城県大崎市古川に出張いたしました際に被災しました一人でございます。
日帰りにて出張を予定しておりましたが、突然の震災にて、宿泊先・食料の確保も大変困難な状況に陥りました。途方に暮れておりました際に、ミスタードーナツ古川駅前様の前を通りかかりましたところ、店内にて店員様・恐らくアルバイトさんも含めた若い方々が一生懸命にドーナツを箱詰めされており、普段、購入させていただく通りの包装を行われておりました。

 店を覗き込んだ私たちに、皆さんが、
「震災でお怪我はございませんか?大変でしたね」
と暖かい言葉をかけていただき、包んだドーナツを手渡していただき、
「残り物でたいへん申し訳ございませんが、召し上がってください」
と丁寧に両手で渡していだきました。

 お支払をさせていただきたいと申し出ましたところ、
「売り物ではございませんので、どうぞお納めください」
と本当に暖かい言葉を頂戴しました。地震直後ですので、大きな余震も度々起こる中で、本来ならば自分たちの安全の確保、ご家族、家の心配を優先するのが当然かと思いましたが、それよりも被災して困っている他人のほうの心配をいただいていることに大変感銘をうけ、また、途方にくれていた私たちに大きな力と勇気をいただきました。

 まったく食べるものの調達の目処が立たなかったため、いただいたドーナツはその日の晩、翌朝と同行しておりました2名と避難所にておいしくいただきました。

 本当に幸いなことに、その後めぐり合せた他の避難者の方々のご好意にてバスを借りていただき、避難所の多くの方々とバスにて3月13日に新潟へと移動し,同夜に奈良県の自宅まで帰り家族と再会をさせていただきました。

 あの時、ミスタードーナツ古川駅前店の若い皆様とお会いしなれば、もっと心も折れており今もまだ避難所にて暮らしていたかもしれません。皆様とお会いしたことで、本当に勇気と力とドーナツ(食料)を頂戴したことが、私たちが一日も早く岐路につけたと本当に感謝しております。

 本来であれば、お伺いして皆様に感謝とお礼を申し上げたいところですが、復興にはまだ少し時間がかかることかと思います。一日も早く復興し、古川に行けるときが来れば、皆様に直接あらためてお礼を申し上げたいと思っていますが、取り急ぎ、いち早く無事に帰れたことのお礼を申し上げたく、また、スタッフの方々のなかにも大変な状況に置かれているかたもいらっしゃれば、是非、このように皆様方の勇気と親切で助けられた者達がいることをこれからの復興において、自信を持ってがんばっていただきたいと思い、失礼かと思いましたが、メールさせていただきました次第です。

 あらためて、被災地の早期復旧を心よりお祈り申し上げますと共に、私たちもまた、遠方より微力ながら復興に向けできる限りを尽くし、全力で頑張ってまいりたいと思います。

 本当に本当にありがとうございました。
                                      以上
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 新聞、テレビなどで報道されているように、震災の直後、多くの小売店や飲食店が商品を無料で被災所のみなさんに配られたと聞いています。

 セブン-イレブのあるお店では、停電でレジが動かないので、
「あとでバーコードを切り取って持ってきてください」
と言い、商品をお客様にお渡ししたといいます。

 日頃は一見、すべてがマニュアルで動いているかのように思えるフランチャイズのお店でも、「いざ」というときには独自の判断で「みんなのため」に「何ができるのか」を考えて実践された人たちがいることに感動を覚えます。

 そこには、人の温もりがあります。