損の道をゆく

 ある日、一編の詩のような文に出逢いました。衝撃で心が震えました。

 「知らなかったのは私だけだったのだろうか?」と恥ずかしくなりました。なぜなら、それは、誰もが知るたいへん有名な企業の「経営理念」だったからです。
 それが、これ!です。
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一日一日とは今日こそは
あなたの人生が(わたしの人生が)
新しく生まれ変わるチャンスです
自分に対しては
損と得あらば損の道をゆくこと
他人に対しては
喜びのタネまきをすること
我も他も(わたしもあなたも)
物心共に豊かになり(物も心も豊かになり)
生きがいのある世の中にすること
                  合掌
         ありがとうございました

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 これを書いたのは、ダスキンの創業者・鈴木清一さんです。

 何が衝撃だったかというと、

「損と得あらば損の道をゆくこと」
という一文です。

 これは何かの間違いではないのか?
そう思いました。ダスキンは、上場企業です。社員の給料を払わなければならない。投資家からは利益を出し続けることを期待されます。一言でいえば、儲けなければなりません。それなのに、「損の道をゆく」というのが会社の理念だというのです。「損の道」を歩んできたのに、大きな会社になり上場までも果たしているというのが不思議です。

 あいにく、鈴木氏は亡くなっておられるので、直接会ってお話を伺うことはできません。代わりに、生前に鈴木氏と親交のあった合資会社ダスキン熊本社長・甲斐紳一郎氏の著書「天の道は人の道 宿命の人生」に、こんな言葉を見つけましたので、その真意を付記させていただきます。

 「商売をする上で、「損の道をゆく」などとは妙な話です。しかし、その真意は、「これを売ればいくら儲かる!」という、最初から自分の利益ばかり当て込んで“皮算用”するのではなく、まずお客様のためになることを考えてお役に立つことに心を尽くせば、それが信頼となり、結果として物も売れて利益が得られる・・・つまり、利益は利益は“結果としてついてくるもの”だというのです。」

 なるほど。
 腹にストン!と落ちました。私が代表を務める「プチ紳士・プチ淑女を探せ!」運動の理念である「ギブ・アンド・ギブ」の精神と同じだったからです。「ギブ・アンド・ギブ」とは、与えて、与えて、それでも与えて、「見返りを期待しない心」のことです。「親切」とはそもそも、見返りを期待しない純粋な心から生まれるものだからです。
 
 これに似た言葉が他にもあります。
日本に昔からある「恩送り」という考え方。宗教や学問の基礎となる「博愛」「恕」「奉仕」の精神。映画にもなった「ペイ・フォワード」。近江商人の教え「三方よし」や、大丸の家訓「先義後利」も根底は同じでしょう。
 そして・・・。それらをとことん追求したものが、ダスキンの経営理念「損と得あらば損の道をゆくこと」だと確信しました。
 普通、企業は「利益」を求めます。簡単に、早く「利益」を得たいというのが本音です。しかし、目の前の「利益」ばかり追いかけていると、継続した繁栄はかないません。だから、グッと我慢する。そして、「もっともっと」とお客様に喜んでもらえるように「与える(ギブ)」を追求していく。そういう会社が繁盛し続け、老舗と言われるようになるのです。
 とはいうものの、実は、鈴木清一さんも、こんなことを告白しています。

「私は、自分に対しては「損の道を行く」と申しておりますが、実際には、いつも、これでいいのだろうか?と迷うことが多いのです。そこで、他の人が、図々しかったり、出しおしみをしたり、さっさと得の道をえらぶのを見ると「あの人も損をしたくないのだ」とわかるような気がします。逆に、何時も人に与える事ばかり考え、自分に受ける事の少ない人をみかけますと、スッカリほれこんでしまって、こういう人にこそ、もっと捧げるべきだ、と思わず献金がしたくなるのです」

 そうなのです。
 誰もが損などしたくない。得をしたい。「にんげんだもの」仕方がありません。

 人間には「欲」があります。お金が欲しい。出世したい。モテたい。その「欲」があるから努力します。でも、その「欲」が「希望」や「夢」という形でプラスのエネルギーになれば明るい人生が開けるでしょう。しかし、「欲」が過ぎてしまうとエゴに陥ります。「欲しい、欲しい」と求めれば求めるほど、人が去って行き、望みがかなわなくなります。

しかし、「どうぞ、どうぞ」と「与える」人に、みんなが集まってくる。それは、商いの場でも、普段の生活の場でも変わりません。
「ギブ・アンド・ギブ」
「損の道をゆくこと」
それは、すべての人生が上手くゆくために最大のキーワードです。

与え続けたら「損」するだけじゃないか?
「損の道」をゆくなんて耐えられないよ~!

そんな声も聞こえてきそうです。でも、大丈夫!
「与えれば(ギブ)」、必ず自分に還ってきます。神様はもちろんのこと、周りの人たちはちゃんと見ていてくれます。あなたが、「自分のことよりも、人のことを先にする人」であることを。格言にもあります。

「情けは人のためならず」
人に関わるすべての物事に共通する真理です。