「日本一のおもてなし」目指して 第2話「たい焼きください」 

第2話「たい焼きください」  赤塚直子

 私は、自他ともに認める「おせっかい」です。お店のお客様にどうしたら、もっともっと喜んでいただけるだろうかと、日々、おせっかいを続けてきました。
スタッフに、どうしたら「お客様ファースト」の気持ちを伝えられるかも課題になっています。


そんなある日、席に着かれたお客様から、料理の注文を伺っていた時のことです。
「この近くに有名なたい焼き屋さんがありますよね」
とおっしゃいました。
 私は、すぐにどこのお店かわかりました。
 「この後、たい焼き屋さんに行きたいので、すき焼きは腹八分目にしておきたいんです」
 私は心の中で、「えらいこっちゃ」と思いました。そのたい焼き屋さんは、営業時間が不規則なのです。もし、すき焼きを食べ終わってから出掛けて、店が閉まっていたらどんなにガッカリされることでしょう。


 たい焼き屋さんに電話をすると、案の定。「もうそろそろ閉めようかと思ってるんや」とのこと。これはあかん。私は、スタッフに店を任せて、たい焼き屋さんへと走りました。スタッフたちの間には「まただわ女将。そこまでするの?」という雰囲気が漂っていました。
 たい焼き屋さんにたどり着き、
「たい焼き5枚くださ~い」
とお願いしました。閉店するのを待っていて下さったのでした。店に戻り、お客様に手渡すとたいへん喜んでくださり、
 「私は2枚でええからみなさんで食べて」
と、3枚を差し出されました。遠慮なく頂戴し、営業が終わった後で、スタッフのみんなで分け合って食べました。


さて、数日後のことです。当店では、毎月、スタッフの皆から身の回りの心温まる出来事を報告してもらい、それを新聞という形で全員に配布しています。その中の一つに、こんな話がありました。
 「女将さんが、お客様のためにたい焼きを買いに行くと聞いた時、ただスゴイなあ、と思っただけでした。でも、時間が経ち、いつも女将さんが口にしておられる言葉と結びつきました。『お客様に喜ばれることは何でもしてあげたい。私は本当のおもてなしを目指してるの』。私は今回のことで、それがわかった気がしました。お客様がたい焼きを手にされた時、とてもとても嬉しそうな顔をしていらっしゃったからです」


 上に立つものは、ブレてはいけないと思っています。手前味噌な話ではありますが、お客様ファーストの考え方が、スタッフみんなに伝染して、理念を共有して一緒に働いていけたらと願っています。

志賀内泰弘

女将さんの言わんとすることは、ただ一つ。「お客様に喜んでいただきたい」。ただ、それだけ。そのためには、手間も暇も惜しまない。そこには能率・効率とかいう概念はないのですね。「四日市柿安」さんは、すき焼き界のザ・リッツ・カールトンホテルなのかもしれません。