「レクサス星が丘の流儀~背中に目がある」 志賀内泰弘
拙著「№1トヨタの心づかい レクサス星が丘の流儀」(PHP研究所)を上梓しました。レクサス星が丘は、全国のレクサス店の中で、「売上」も「おもてなし」もトップクラスのお店として有名です。
前作「№1トヨタのおもてなし レクサス星が丘の奇跡」(PHP研究所)のパート2ですが、中身はより細やかなエピソードが盛りだくさんです。
その一つ。
「お客様の利き手を知る」というお話を抜粋させていただきます。
「お客様の利き手を知る」
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さらに、アソシエイトの柴菜々子さんのこんな発表に興味が湧いた。 柴さんは、オーナーのBさんが整備や洗車で来店される際、いつも心がけていることがあるという。ラウンジでコーヒーを提供する際、おしぼりをテーブルの左側に置くのだ。また、書類にサインをいただく時には、ボールペンを左手に差し出す。なぜなら、Bさんが「左利き」だということを知っているからだ。 アソシエイトの柴さんに尋ねた。 「あなたは左利きなのですか」 すると、「いいえ」と答え、こんな説明をしてくれた。 「家族にも左利きは一人もいません。でも、ゴルフクラブを振ったり、お飲み物を飲まれる時、お客様が左利きだと知りました」 レクサス星が丘の2階の駐車場には、オーナーのお客様専用のゴルフ練習場がある。練習場に案内した際、その様子を見て知ったらしい。なんという観察力だろう。後日、左利きの友人に尋ねると、日頃生活していて、レストランでもホテルでも、そんな配慮をされた経験は一度もないという。「きっと、めちゃくちゃ嬉しかったと思うよ」と言う。
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ここで思い出したのが、立川談春さんの著書「赤めだか」です。高校を中退して立川談志さんに弟子入りする奮闘記。若き日の談春さんを二宮和也さんが演じて、ドラマ化もされました。
そのドラマの中で、こんなお話があります。
ある日、談春さんは誤解から談志師匠に冷たくされるようになります。それまで、稽古をつけてもらっていたのに、稽古どころかしゃべってさえくれなくなりました。
耐えきれなくなった談春さんは、談志師匠に稽古をつけてくれるように頼みます。
すると、師匠から思ってもみなかったことを命じられるのでした。「築地市場で一年間働いて来い」
落語家になりたくて弟子入りしたのに、なぜ築地で働かなければならないのか。談春さんは、文句たらたらで築地市場の中華食材の卸問屋で働き始めます。
慣れない仕事の上に、元々嫌々なので失敗の連続でした。
両手に何段も重ねたばんじゅう(食材を入れる箱)を運んでいて、ひっくり返してしまいます。床には、シューマイがぶちあけられました。
それが何度も。
女将さんににらまれて、謝りつつも言い訳をします。
「後ろからぶつかって来て・・・」
と。威勢のいい築地の人たち。朝はまさしく戦場のような忙しさです。要領もわからず、のろのろと歩いていたからでした。
すると、
「人のせいにするんじゃないよ。よけなかったお前が悪いんだよ」
と言われました。
談春さんは、
「そんなん無理じゃないですか。背中に目があるわけじゃないんだから」
と言うと、女将さんに言い返されました。
「だったら、背中に目をつけな。今、自分の周りに何が起こってて何をしなきゃいけないか、状況判断ができねぇ奴はここではやってらんないよ」
そうです。
本当に「背中に目」をつけろと言っているわけではない。
周りの人たちをよく観察して働けということです。その女将さんの言葉を契機にして、談春さんの働きぶりは変わりました。
そして築地での一年が経ち、「背中に目」をつけた談春さんは、落語家修行に復帰し、人が変わったようにめきめきと頭角を現します。
さて、話は戻ります。
レクサス星が丘の柴菜々子さんのことです。
まさしく、「背中に目」があるのですね。
同じ「おもてなし」をしても、お客様の「左利き」に気付く人と、気付かない人がいます。
さらに、気付いたら、お客様が使いやすいようにコーヒーカップやおしぼりをセッティングする人がいます。
たったそれだけのことで、お客様の心を明るくすることができます。
ここに、レクサス星が丘の流儀があります。