会えてよかった~モスバーガーとお爺ちゃん
フランチャイズのファストフード店は、どうしても画一的なサービスのイメージがあります。そして利用するのは、あまりコミュニケーションを求めない若い人たち。そんな先入観を覆す、ステキなお話を耳にしました。
福岡県北九州市にある、モスバーガー・折尾産医大前店の柴田由紀さんは、高校時代3年間、モスバーガーでアルバイトをしていました。その後、社会人となり結婚・出産。再び、パートとしてモスバーガーで12年間働き、1年前から正社員になった方です。
彼女の勤めるお店には、10年以上も通い続けて来られるお客様がいます。必ずコーヒー一杯を注文し、20分ほど新聞を読んで帰えられるお爺ちゃんです。失礼ながら、ちょっと気難しい。レシートは不要、砂糖なしでミルクが二つ。氷なしのお水。そして新聞という具合に、すべての条件が揃わないと不機嫌になるのです。
かといって、あまり親切にし過ぎても、「年寄り扱いした」と言われます。
でも、1年ほど経つと、お爺ちゃんの一番心地良い接遇の仕方や心の距離感を掴むことができ、安心して寛いでいただけるようになったそうです。
そして、2年目には、
「ああ、今日もあんたの顔が見れてよかった」
と言ってもらえるようになり、柴田さんの姿が見えないとキョロキョロと探されるようになりました。さらに、お爺ちゃんは、お店のスタッフ全員を、「私の孫だ」とまで言っていただけるようになりました。
柴田さんも、毎日、お爺ちゃんに会うのが楽しみで、一日でも来られない日があると心配になるのでした。ある大雨の日には、カッパと長靴という出で立ちで現れ、
「お休みしたら、あんたが心配するからね」
と。心が通じていたんだなと、胸がジーンと熱くなったそうです。
3年ほど前のこと。
お爺ちゃんが、
「明日から旅行に行ってくる」
と言われ、それ以来、来店されなくなってしまいました。「えらく長い旅行だなぁ」「何かあったのでは」と心配でたまらなくなりました。
半年ほど経ったある日のことでした。お爺ちゃんが大きな箱を抱えて、久し振りにお店に現れました。
「あんたたちが心配するといけないから旅行に行くと言ったけど、実は入院しとったんよ」
と言い、たくさんのケーキをプレゼントしてくれました。退院の内祝いでしょうか。それとも、「孫」であるスタッフたちへの手土産のつもりでしょうか。
さて、そのお爺ちゃん、今はどうしているかというと・・・。
お年を召され、ヘルパーさんにお世話になっているそうです。それでも、「週に1回病院へ行く日にしか来られなくなった」と言いながらも通って来られます。ただし、以前とは違って、
「氷なしのお水の量を半分にして」
と注文されます。なぜなら、腕の力が衰えて、コップさえも持つのが重たくなってしまったからです。
柴田さんは、
「気を付けて」
と見送ったお爺ちゃんのスウェットの上下の後姿を見て、思わず微笑んでしまいました。おそらく、息子さんの物でしょう。カパカパの大きな紳士靴を履いて来られたのでした。
帰られた後は、トイレ掃除をします。お年のせいで、上手く便器に入らないので、外へこぼれてしまうのです。もちろん、来ていただけるのが嬉しくて、喜んで掃除をします。
「今日も会えてよかった」
と言い、みんなと笑顔で握手してくれる。お爺ちゃんの人生の中に、自分たちとの思い出も詰まっているのかな、と思うと嬉しくなる。柴田さんは、これからもお客様が感動してくれるお店を作りたいと言います。
フランチャイズだとか、ファストフード店だからとか、そんなことは関係ない。人と人の間には、温もりがあります。「おもいやり」の気持ちを込めて接すれば必ず伝わるのですね。その温もりを大切にするお店が愛される。年齢を超えて。
そして、そこで働く人たちも幸せになる。
飲食店は、単に食べ物を提供する場所ではないことを改めて学びました。