コロナ禍で学んだ「笑眼力」の素晴らしさ

 スターバックス・名城公園店(愛知県)の常連です。その飛び切りの「おもてなし度」については、本紙小欄や拙著「眠る前5分で読める心がスーッと軽くなるいい話」(イーストプレス)の中にも収めました。
例えば、こんなお話です。
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 うだるような猛暑の昼下がりのことです。席に着くなり携帯が鳴りました。慌てて店の外へ出て電話を受けます。すぐに済むと思ったら、大きな相談事でした。30分以上も炎天下で話をしました。汗だくで店内に戻り、椅子に座ってビックリ。テーブルの上に、紙コップに入った氷水が!振り向くと、カウンターの中でNさんがこちらを向いてニッコリ手を振っていました。私は、思わず右手を握り締め、親指を立てて「good job!」と答えました。また一つ、明日への元気をもらいました。
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 ホスピタイティいっぱいでしょ!
こんなことが、ごく普通にあるんです。何よりパートナー(スタバではスタッフさんのことをこう呼ぶ)さんたちの笑顔が素晴らしいのです。その笑顔を見に行くと言っても過言ではありません。ちょっと心や身体が調子が今一つの時にも、元気になれるからです。

 さて、このコロナ禍。どの飲食店や小売店も、接客の窓口ではアクリル板や透明シートの壁が作られました。ところが、なかなか声が聞き取りにくくて、何度も聞き直することがあります。結局、先方がアクリル板の横から顔を出して、「もう一度いいですか?」なんて聞き返されたりすることも。感染防止は最重要事項ですが、そのせいでコミュニケーションが上手く取れなくて、お互いにイライラすることもあります。先日も、ある飲食店のレジで、「責任者だせ!」と怒鳴っている年配男性に出くわし、びっくり。おそらく、自粛疲れと不安からくるストレスで心が疲弊してしてしまったのでしょう。

 非常事態宣言が解除され、スタバも営業を再開した時のことです。いつもの名城公園店の店内に入ると、店長の和田直子さんが「笑顔」で迎えてくれました。ああ~また来れる。その喜びが湧いてきました。・・・む、ちょっと待てよ。なんで笑顔ってわかったんだろ?マスクをしているのに。そう思いながら、もう一度和田店長の顔を見つめました。そうです。マスクをはめているのですが、「眼」が笑っているのです。
「笑顔」というと、「顔」全体のことです。今まで、「眼」だけに注目した覚えがありませんでした。「眼」だけ見ているのに、ちゃんと笑顔だとわかるのです。

 席に着くと、自分でもやってみました。「眼」だけ笑ってみようとします。むむ・・・。難しい。そうなんです。「顔全体」で笑わないと、「眼」も笑わないのです。新たな発見!

 よく接客業の研修で、こんなことをします。鏡の前で、割り箸を口にはさんで、「いー」と言う。すると、口角が上がって笑顔になります。帰宅して洗面所の鏡の前で、歯ブラシをくわえて久し振りにやってみました。「いー」と。すると、一つのことに気付きました。たしかに、「いー」だけで、笑顔には見えます。でも、「眼」はそのままの状態。鏡に写った自分の顔は「笑顔」に見えるのです。でも、何か足りない。「一応」笑顔という感じ。ところが、「眼」の辺りの筋肉をなんとか動かして、「眼」を細く「へ」の字にしようと努めると、もっともっと「いい笑顔」になるのです。自分で自分の顔の採点をするのも妙ですが、「眼」も笑うと3倍くらい明るく見えるのです。ひ弱で貧乏くさい顔にもかかわらず。
 
 さて次の日、和田店長にこの話をしました。
すると・・・。
「ありがとうございます。コロナの前から、パートナーさんたちには『眼で笑いなさいね』と指導しているんですよ」
と。やっぱりです。できるマネージャーは違います。「すごいな~」と思いながら、再び和田店長の「笑顔(笑顔)」を見ると、「眼」だけではなくそれ以上に「何か」プラスの波動が伝わってくる気がしました。え?これって何だろう・・・。

 この話を、オフィスイガッタ代表の田村茂さんにしました。田村さんは、(株)モスフードサービスの元・専務取締役で、全国のモスバガーのフランチャイズ店の「おもてなし」の指導をしてきた人です。

 「『眼』だけ笑おうと思っても難しいですよね。心の底から笑わないと、『眼』は笑っているように見えません。心から笑う人は、マスクも動きます。それだけではありません。マスクのせいで、表情で気持ちが伝わらないと思うと、自然と人は手ぶりを大袈裟にしたり、肩を揺すったりして、『仕草』で補完しようとします。優れた接客のできる人は、身体全体で『ようこそ』とお迎えする気持ちを表すことができるのです」

 そうか~なるほど!そういえば、和田店長は顔や身体が動くことを思い出しました。
「笑う」ことが、健康に良いことは医学的に証明されているそうです。仮に楽しくなくても、いや、辛いことがあっても、無理矢理にでも「笑顔」を作ると、脳が「楽しい」「幸せだ」と錯覚してしまい、免疫力がアップするというのです。

 しかし、口元だけでなく「顔全体」で笑うことは、相当意識しないとできません。マスクをしていて、「眼」だけで相手に「笑っている」と伝えるためには、強く強く笑おうと努力しないとできないのです。

 実は、恥ずかしながら、私は笑顔が下手です。写真を撮ってもらう時、よく言われます。「もっと笑ってもらえませんか?」「こう?」「目尻を下げて」などと。でも、顔が強張ってしまいます。仕方がないので、こちらからカメラマンに頼みます。「面白い話してもらえませんか?何か笑えるやつ」。不器用なのでしょうか。顔だけ笑おうとしてもできないのです。心で笑えないと、笑顔にならないのです。

 そうなんです!「笑顔」ってそもそも「心の声」なんですよね。心の底から「お客様に喜んでもらおう」「やりがいある仕事だ」「仕事が楽しい」と思っていれば、自然に「笑顔」が湧き出でくるものなのですね。その「笑顔」を見て、お客様も「笑顔」になる。その「笑顔」を見て、こちらも「笑顔」になる。明るい気持ちの連鎖反応が起きます。それが、どんどん増えたら、こんな鬱々とした状況の世の中も、明るくなるに違いありません。

 コロナの騒ぎのおかげで、また一つ「おもてなし」の心をスターバックス名城公園店から学ばせていただきました。