タクシーに乗って考えたこと(その2)
「些細なことで、大きな『差』がつく」
呈茶を見れば、人がわかる
ある会社の社長さんから聞いた話です。
新入社員が入って来ると、まずお客様にお茶を出す仕事をさせる。呈茶の様子を見守るだけで、その人のレベルがわかってしまうと言います。
もし真夏であれば、デキル人は冷たい麦茶のお代わりをすぐにお持ちする。汗を拭き拭き応接室に入って来られ、すぐにグビグビッ飲み干してしまうからです。
かといって、真夏だからといって氷の入った「冷たい麦茶」やアイスコーヒーが良いとは限りません。できる範囲で、お客様に「冷たくないお飲物の方がよろしいでしょうか?」と尋ねることもある。今どき、ビルやタクシーの中はエアコンがガンガンに効いています。冷房病になっている人もいるでしょう。夏風邪や寝冷えでお腹の調子の悪い人もいる。夏だから「冷たい」飲み物が良いとは限らない。
もっと、スゴイ人もいます。社長さんが社用車を表に待たせている場合もあります。そんな時、真冬なら運転手さんに温かいコーヒーなどをお持ちする。感激されること請け合いです。
たかが、呈茶、されど呈茶ですね。
シートベルトの着用にご協力ください
タクシーに乗ると、必ずと言っていいほど言われるセリフがあります。
「シートベルトの着用にご協力ください」
私は、これを聞き、いつもムッとします。それはなぜか?・・・そう、車に乗るとすぐに着用するからです。もちろん、腹が立つほどではありませんが、不愉快です。小学生の頃、よく母親に「宿題はやったの?」「勉強しなさい」と言われていました。勉強中に、たまたまトイレに行っただけなのに、「宿題は?」と言われ「もうやってるわ!言われるとやりたくなくなっちゃうじゃないか!」と、わけのわからない屁理屈を言ったことを思い出してしまうのです。
ちょっと嫌味だとはわかっているものの、「もう、締めてます」と答えます。
言い訳するドライバー
すると、その反応は様々です。多くのドライバーは「感じの悪いお客さんだなぁ・・・」という空気むんむんと漂わせて、「そうですか・・・」と答えます。中には、「運転しているので、見えませんでした」と言い訳します。でも、これは通用しません。発車する前に、私はすぐ着用するからです。
なぜ、そんなことになるのか。
それは、会社の上司から「シートベルトの着用を、お客様に必ず協力をお願いしなさい」と指示されているからです。ある運転手さんに聞くと、しばしば・・・というより頻繁にお客様との間でトラブルになるそうです。
「近いからいいやろ」「高速道路でなきゃ、いいはずだ」「お腹が苦しいんだ」「お前は警察か!」などなど。決まり事とはいえ、毎回毎回、お客様とトラブルになってはかなわない。
ある時、締めようと思って、差込口を探したけど見つからない。どうも、シートカバーを掛け替えた時、シートの中に埋もれてしまったようなのです。すると、「ああ、いいですよ、締めなくても」と言う。いや、自分の身体を守るために締めるのであって、言われたから締めるのではありません。
・・・あっ!「いい話」のコーナーなのに、「悪い話」ばかりでごめんなさい。
さらに最低レベルの事例
下には下が、まだあります。メーターが入るとともに、車内に機械の音声が流れます。
「安全のため、シートベルトの着用にご協力ください」
これには唖然としました。機械に向かって「もう、締めてます!」と言い返すのも惨めです。なぜ、録音テープでお客様にお願いしなければいけないのか。「うちのドライバーは、こんな簡単なことさえ口に出して言えないのです」と、サービスのレベルの低さを明言しているようなものです。
最高レベルとは?
ある時、いつものようにタクシーに乗ると、シートベルトを締めました。すると、運転手さんがすかさず言いました。
「シートベルトのご協力、ありがとうございます」
と。
「なぜ、わかったのですか。バツクミラーに見えたのかな」と言うと、
「いえ、カチャッという音が聞こえたものですから・・・あと、素振りですね」
参りました。まさか音で察知しようとは。聞けば、まだまだシートベルト着用が普及していないらくしく、お客様から文句を言われることが多いそうです。それだけに、協力してもらえるのはすごく嬉しい。だから、お礼を言いたくて五感を働かせている。
たかが、シートベルト、されどシートベルト。些細なことで、サービスのレベルがわかります。
それは、今度、別の場所で自分が「もてなす」側に立った時に生かされます。