新人タクシードライバーから学んだこと(その2)

~一流の人は、どこがどう違うのか~

 中日新聞に、コラムが掲載されたのが平成29年4月9日。するとすぐに、荒木さんからスマホにメールが届きました。

 「新聞掲載、ありがとうございます。69万円にアップしました。これからも日々精進していきます」
 びっくりしました。僅か半年です。それも目標を大きく上回って達成しているというのです。その数字が、どれほど大変なものなのか、タクシードライバーをしている友人や、タクシー会社の役員さんから聞いて知っていました。
ただ、道を流しているだけでは達成できません。指名されるお得意様を何人も持たなければできない数字なのです。

 そうなのです。荒木さんは、大勢のお客様からファンとして支持されたのです。あっという間に。

 実は、読者の皆さんに(その1)で隠していたことがあります。私は、ただ「直観」だけで「トップになれる!」と信じたわけではありませんでした。喫茶店でお茶を飲みながら、荒木さんがどんなことに心掛けて仕事をしているか、執拗に聞き出していたのです。以下は、荒木流「タクシーおもてなしの極意」です。

【お客様の何気ない仕草で心の中を読む】

 目的地まで急いでいるお客様は、それが何らかの仕草や態度に出るものだといいます。例えば、後部座席に座ったとたんに前屈みになる人。シートにもたれていても、ガサガサと音を立ててカバンの中を見たり、身体を小刻みに揺すったりして落ち着きがない人。急いでいることが、態度に出るのですね。
 そういう場合は、安全運転はもちろんのことだが、できるかぎり早く目的地に着くように心掛ける。
また上着の襟を合わせる音が聞こえたら、「車内の温度をお上げいたしましょうか」と声掛けする。

【高齢者への配慮】

 すべてのお客様に対して、気を付けてはいるが、お爺ちゃん、お婆ちゃんを乗せた際には、スピードを緩めてブレーキの掛け方に注意する。
 (志賀内は、胃腸の調子がよくないことが多く、ブレーキを頻繁に踏むドライバーさんのせいで気分が悪くなることがあります。だから、よくわかります)

【お子さんの気持ちになる】

 小さな子供連れのお母さんは、タクシーの中で子供が大きな声を出すと、「騒ぐんじゃありません!」と言い、叱る。そんな時、荒木さんは、「ボク、騒いでもいいよ~」と言ってあげるといいます。お母さんは、びっくり。「車の中は電車と違って誰にも迷惑はかかりません。もちろん運転手の私も大丈夫。小さいお子さんは騒ぎたいものです。どうぞ、自由にさせてあげてください」と。
 車を降りた後、子供はバックミラーの中で、いつまでも手を振ってくれるといいます。

【スマホで話し中のお客様に対する心掛け】

 座席で、商談なのか電話に夢中のお客様が多く見受けられる。そういうお客様には、できうる限り話し掛けないようにしている。でも、目的地までの道筋の確認をしなくてはならない。そこで、じっとお客様の会話の様子を伺い、ほんのちょっと途切れた瞬間を、早め早めに見計らって、
 「次の角を右でいいですか?」
と小声で話し掛けるのだそうです。そして、左手で「右へ曲がる?」という手振りのサインを出す。
 すると、お客様も暗黙の了解。電話でしゃべりながら、手で「OKサイン」を作って下さるそうです。それをバックミラーで確認。お客様の都合に合わせて、会話じゃなく、身振り手振りでも意志の疎通ははかれるといいます。

【シートを汚してもいいですよ】

 病院への送迎でよくあること。いかにも気分が悪そうなお客様に一言。「シーツが汚れてもかまいませんので、少しの時間でも横になって眠ってください」と。聞けば、クリスマスの時期で、数日寝る暇もなくケーキを作り続けていたパティシエさんだったそうです。泥酔されたお客様の吐しゃ物などドライバーさんにとっては一番の迷惑と耳にしたことがあります。でも、それよりもお客様の気持ちになって接することを優先したいと。

 荒木さんは、「おもいやり」の気遣いは「観察力」だと言います。では、なぜ、その観察力が見に着いたのか?
またまた、突っ込んで聞きました。