まさしくこれが「一期一会」

 後悔をしたことがあります。友人が病気になった時、すぐに飛んで行けなかったことを。その後、その友人は亡くなりました。行けなかったのには理由がありました。でも、ひょっとしたら無理をすれば何とかなったのではないか。辛い記憶です。

 さて、名古屋に本社を置く、フジタクシーに乗った時のことです。

 運転席の後ろのポケットに刺してある「一期一会」という名前の車内報(社内報ではありませんので念のため)に、こんな記事を見つけました。ここに転載させていただきます。

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 4月のある日のことである。配車でお迎えに上がったお客様は、3ヶ月ほど前、一度お乗せしたことのある女性であった。
「ご乗車ありがとうございます。どちらまでおいででしょうか」
「〇〇町まで」
とおっしゃるお客様の声が、どこか沈んでいるように思えた。

 見覚えのある私の顔に安堵したのか、やおらお客様が「実はね・・・」と沈んだ表情の訳を話し始めた。

 病院で知り合った親しい友人が、末期がんで入院していたのだが、2週間ほど前から一時退院で自宅療養をしているのだという。退院後、一人暮らしのその友人の家に通い、身の回りの世話をしているのだが、急に具合が悪くなったので家に来てほしいと、先程電話があったらしい。胸騒ぎと一抹の不安を覚えながら、急ぎタクシーを呼んだのだと言う。

 程なくタクシーは目的地に到着した。

 私の仕事は本来ここで終了である。
 だが、お客様の不安げな表情が気がかりであった。

 「私がここで少し待っています。何かありましたら声をかけてください」
 おせっかいとは思ったが、そのままこの場を離れることはできなかった。

 20分程してからであろうか。
 「運転手さん、ちょっと手伝ってもらえない?」
と、お客様が困り切った様な表情で出て来られた。

 お客様の了解を得て家の中に入ると案の定、ベッドに寝ている友人を何とか病院に連れて行こうするのだが、一人では連れて行けないとのことであった。お客様と一緒に友人を抱えタクシーにお乗せし病院に向かった。

 病院へ着くと車椅子を借りて救急受付までご案内し、その場を離れた。

 それから2週間ほど経った頃である。そのお客様が、あの日のお礼に来られたのである。
「その節は、運転手さんに大変お世話になりありがとうございました。お陰様で、友人もあれから2週間、命を長らえることができ、最期を悔いなく看取ることができました」

 あの日、友人を病院に連れて来なかったら、その日が命日になっていたと、医者から言われたと言う。友人の葬式を終え、その足でお礼に駆けつけてくれたのだ。

 病院で知り合った友人との「一期一会」、お客様とタクシードライバーとの「一期一会」の話である。
「一期一会」、これからも大切にしたいと思う。
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(志賀内)

 なんとも切ないお話です。でも、そんな中、人の温もりを感じました。世の中捨てたもんじゃない!一期一会を大切にして生きて行きたいと思いました。