第3回 号泣「心配かけたくなかったの」

カミさんのボコボコのオッパイに触れた。右の胸全体がまるで陶器のようにカチカチだった。ところどころ茶色に変色。専門医の診察を受けるまでもなく、乳がんが頭部の皮膚に転移しているものと思われた。ということは・・・あちこち内臓にも転移しているに違いない。私は半ば錯乱状態だった。

山田邦子、アグネス・チャン、南果歩、北斗晶らタレントが乳がんになり、その闘病の様子が報じられてきた。だが、いずれも胸の「シコリ」を早期発見し手術治療を受けたというもの。カミさんの場合は、末期も末期、最悪の状態であることが素人目にもわかった。その時、思い出したのが、5年前に胃がんで亡くなった母のことだった。検査すると、ステージⅣ。膵臓に浸潤しており手術は不可能。肝臓にも転移。母は一切の治療を拒み、発覚から4か月で亡くなった。カミさんとも、あと4か月でサヨナラか。号泣した。

疑問は、「なぜ、こんな状態になるまで放置していたのか」ということだった。医者嫌い、検査嫌いはわかっている。それにしても、それだけでは理解できない。カミさんが涙を流して言う。

「半年くらい前からシコリに気付いてたの。それがどんどん大きくなり怖くなった。ますます病院に行けなくなった。心配かけたくなかったの。あなたが会社を辞めて独立して、ようやく軌道に乗ってきたところ。ここで私ががんになって入院したら、あなたの仕事の足を引っ張ることになる。お父さんとお母さんの時みたいに、あなたはきっと、私の看病でフラフラになって倒れてしまうから・・・」

5年前、肺の病気で臥せっていた父を在宅介護していた母が倒れた。私は会社勤めしながら両親の看病介護をし、ストレスと疲労から十二指腸潰瘍、膀胱炎などを併発。カミさんも協力してくれたが、二人とも限界に達していた。その時のことを言っているのだった。さらに言う。「このまま、がんを抱えて死んでいくつもりだったの。お母さんのように。でもバレちゃった」。母は一度も痛みを訴えることなくホスピスで眠るように亡くなった。お世話になった何人もの医師に言われた。「本当に痛くないんですか?」「不思議です」「奇跡だ」と。カミさんは、母を看取った時のことが頭にあり、「死ぬのは怖くない」「安らかなものだ」と思い込んでいるらしかった。

私には、理解不可能だった。だが、それがカミさんの私への「愛」らしかった。二人して雄叫びを上げるように泣いた。