第2回 発病・発覚・・・ボコボコの乳房を見て卒倒する

その日も「普通」の朝が来て「普通」の一日が始まった。朝食を済ませると、私は書斎で締め切り間近の連載コラムの仕事をし、カミさんはすぐ近所の皮膚科へ出掛けた。何日か前のことだ。美容院へ行ったら、頭の前方に「ハゲ」があるという。私が「どれどれ」と見てやると、50円玉ほどの大きさ。以前にも似たようなお客様があり、皮膚科を受診することを勧めたという。早く治療したこともあり、ほどなく治ったとも聞いた。カミさんは、とにかく医者嫌い。面倒がるのを何度も背中を押し、その日ようやく重い腰を上げて受診することにしたのだった。

しばらくして帰宅。「どうだった?」と尋ねると、「普通のオデキじゃないので細胞検査に出すと言われた」とのこと。その場で有無を言わせずメスを入れ、細胞を取られた。「痛くてたまらない」と嘆き「だから病院は嫌いだ」と半ば怒っている。そして、数日後の検査結果を待つことになった。不安ではあったが、縁起でもないことは考えないようにしようと、マイナスのことを心から打ち払った。カミさんも、いつものように「普通」の生活に戻った。それは6年間に及ぶ苦難の闘病生活の始まりだった。まだその時点で、私はそんなことを知る由もなかった。

そして平成23年4月10日の朝が来た。テレビは、つい一月前に起きた東日本大震災のニュースを流し続けている。カミさんは皮膚科から帰って来ると、眉を潜めて暗い顔つきで言った。「ダメだった」。「がん」と診断され、紹介状を書くので総合病院へ行って精密検査をしてもらうように指示されたと。それも即刻。この時点で私は思っていた。「早期発見で良かった!」と。

ところが、その日の夜11時。カミさんが「話がある」と言い私の目の前で正座した。こんなことは結婚して以来、初めてのことだ。「ウソをついてた。隠していた。ごめんなさい」と言い、シャツを首までめくり上げた。私はそれを見て卒倒した。左のオッパイがボコボコに膨れ上がっている。まるで南瓜のよう。右側もいくつかの親指大のシコリが。なぜ、こんなにもなるまで黙っていたのか?理解の度を越えていた。そう言えば、意識して裸姿を見られないようにされていた気がする。

その瞬間から「普通」の生活が我が家から失せた。「普通」の有難さ、感謝を忘れていたことに気付いた時は手遅れだった。