第7回 A総合病院M先生から「延命」と告げられる

悪いに決まっている。そう覚悟はしても聞くのが恐ろしい。平成23年4月21日。A総合病院の待合室で、気付くと目を閉じ両手を合わせていた。名前を呼ばれてあの「冷たいA先生」の診察室に入った。CTなどの画像を見せられながら診察結果を告げられた。

「原発がん(最初に発生した臓器)である左の乳房は、非常に大きくて奥深くの脂肪まで浸潤しています。それが腰・背・首・足など全身の骨に転移しています。その他、頭と胸の表面(皮膚)、さらに小さいが肺にも転移していますね。痛くないですか?」

「いいえ」

とカミさんが答える。「あ、そう」と首を傾げる。つまり、普通の人だと、痛みが出て不思議ではない状態なのだと推測した。続けて「脳や胃腸、肝臓には転移はないようです。ちょっと肝臓は小さな影がありますが、これががんかどうかはわかりません」とも。

不幸中の幸いと思った。肝臓に大きく広がっていたら、それこそカウントダウン状態だと母親の時の経験から知っていた。ところが・・・。「手術による治療はできません。ここまでひどいと治りません。抗がん剤による治療になります。それもあくまで延命です」と言われた。クラクラとめまいがした。診察室に入る前、カミさんにきつく言われていた。「あなたは喋り過ぎる。先生を不愉快にさせるから黙っていて」と。聞きたいことは山ほどあったが、カミさんに任せて耐えることにした。だから「余命はどのくらいですか?」と聞こうとしたが我慢した。いや、「怖くて聞けなかった」のだ。

何秒か沈黙が続いた。M先生は「抗がん剤は副作用を見るため、最初入院してもらいます。ええっと・・・でもけっこう一杯なんだよね」と言いながらパソコン画面のスケジュールを確認し始めた。カミさんが口を開いた。「ちょっと考えます」「え?」「考えるって?」「どうするか」「そんなこと言ったって、抗がん剤やらなくてどうするの?」。M先生は、信じられないという表情だった。当惑の様子が手に取ってわかる。「でもね、ここ見てよ。今ならたまたま空いてる。でもその後、病室も一杯だし時間が経てばもっとひどくなるよ」「はい、1か月くらい考えさせて下さい」。呆れ顔で言う。「いい~これ見て。診察だって予約びっしりなの。1か月後って言ったって・・・ううん仕方ないなぁ。じゃあ、ここに予約入れておくから」

M先生の態度にまたも怒りが募った。だが、それ以上に、カミさんの返答に頭を抱えた(こいつ、このまま死ぬ気だ)。次の診察は5月23日となった。