第6回 友達に電話しまくる・・・聴いてもらうだけで救われる

後になって、さまざまな人がいることを知る。妻ががんになった時、誰にも言わず一人で耐えたという知人の話。聞けば「幼い子供がいるので、父親として弱音を見せるわけにはいかなかった」と言う。職場でもほんの一部にしか打ち明けなかったと。私には、とうてい真似できなかった。どうしようもない苦しさを、一人で抱えることなどできなかった。

錯乱状態で友人たちに電話をかけまくった。前回述べたように「名医」や「特効薬」の情報を教えてもらうためだった。だが実際は違った。もだえるほどの胸の内を聴いてもらいたかったのだ。息せき切って喋る私の話を、誰もが黙って聞いてくれた。A総合病院のM先生とは大違い。電話の向こうで、一緒になって泣いてくれた人もいた。以前聞いたことがあった。「人は、人に話を聴いてもらうだけで、悩み事の半分は解決する」と。それは本当だった。悲しくて悲しくて、この瞬間生きているのが辛いほど。ところが、胸の中の「悲しみ」「やるせなさ」「どうしようもない苛立ち」を吐き出すと、不思議に心が軽くなった。ただ「聴いてくれる」だけで救われた。

みんな言葉すくなだ。話し終えた後、沈黙になる。何と声を掛けたらいいのかわからないのだろう。それでも様々な励ましの言葉をもらった。当時の日記の走り書きからいくつか紹介したい。

少し前にやはり奥さんをがんで亡くしたT君の言葉が胸に沁みた。「話ならいつでも聴くよ。喋った方がいい。必要なら飛んで行く」。頼もしかった。一人じゃないんだ、と思った。学校の先生からは「普通にいつも通りに生活するのを心掛けなさい」とアドバイス。その通りだと思いハッとした。そこへ、私の持病の主治医の言葉。「寿命まで人は生きるのです。病気で死ぬのではありません。病気は原因にすぎないのです。だから、寿命まで、一日一日大切に生きるのです」と。

古い友人たちは、揃って心配してくれた。「自分の健康が第一。お前が支えなあかんのだからな」「奥さんを明るく励ましてあげて」と。そんな中、家族ぐるみで付き合っている友人からガツンと一発食らった。「もっと不幸な人は世の中にいっぱいおる。甘えとるな!」。慰めるどころか叱られた。不思議と腹が立たない。へこたれていた心にエネルギーが入った感じがした。持つべきものは友達だ。みんなに支えられ、よろよろと起き上がった。