第15回 何を食べるか、食べさせるか

食べたものが細胞に替わる。だから、身体に良い物を摂りたい。
少なくとも害になるものは避けたい。そこで食事療法。「がんが治る」食事という類の本は実に多い。そこに必ずと言っていいほど載っているのが「ニンジンジュース」だ。一日に1から2リットル飲むと効果があるという。

無農薬のニンジンを通販で購入し、毎日ジューサーで作ってカミさんに飲ませた。飲みやすくするため、リンゴとハチミツ、さらに腸内細菌を整えて免疫力を上げるため植物性乳酸菌を混ぜた。押し付けにならないように、「一緒に飲もう」と二人分作る。ここがミソ。だが、半年もしないうちに「もう飲まない」と言い出した。抗がん剤で食欲不振になる。ただでさえ、物が食べられない。そこへジュースでお腹がガバガバになり、肝心の食事が摂れなくなる。寒くなると私も飲みたくなくなった。ジュースでお腹が冷えるのだ。当然、胃腸の具合が悪くなる。結局、挫折。

医療コーディネーターのI先生を始め、あちこちで言われたこと。炭水化物は「がんの餌」なので、極力控えるようにと。分解されて糖分になる。これががんの好物だと言うのだ。カミさんは大のパスタ好き。三食でもいいと言う。白米もパンも好き。食事の度に「少なめにしようよ」と言っていたら、ある日爆発。「食べたいもの食べずに生きても仕方がないわ!」と。「じゃあ、1週間に一度、食べたいだけ食べる日を作ろうよ」と提案するも聞き入れられず。難しい。「カミさんのため」と思ってのことが精神不安定を招く。

「乳がんと牛乳」という本がある。イギリス人の乳がん患者の体験記だ。乳製品の摂取を止めたらが、乳がんが治ったというもの。一つの学説にもなっているらしい。これも実践しかけたが、すぐに頓挫。チーズやバターはカミさんの大好物なのだ。結局たどり着いたこと。何でも食べられる時に食べたい物を食べる。それでいい。なぜなら、抗がん剤の副作用で食欲不振のことが多くなり、食事療法などと言っている余裕もなくなるのだ。

もう一つわかったこと。ニンジンジュースの他、アガリクス、フコイダンなど、「私はがんに効きました」という情報が耳に入る。だが、きっと、その人は良いと言われる治療方法を「あれもこれも」同時にやっているに違いないのだ。ということは・・・本当はどれが効いたのか(複合的かも)わからない。食事療法は重要と理解しているが、これほど難しいものはない。