第11回 抗がん剤は毒です

A総合病院のM先生から抗がん剤治療の説明を受けた。カミさんは最も心配していることを自分で尋ねた。「副作用は何がありますか?」と。間違いなく誰にも起こるのは脱毛。そして、人により差異はあるものの手足の指先のしびれ。そして吐き気や食欲不振。抗がん剤に著しい拒否反応が見られる場合もある。よって、最初の投与は入院をして経緯を見ることになるとの答だった。

ただ、何よりもこの言葉が頭に残った。「抗がん剤は毒ですから」。毒で、がん細胞を叩く。だが、正常な細胞にもその毒は影響を及ぼす。それが副作用だ。抗がん剤治療を受けることに決めた際、どんな時に重大事態(死)に至るのか。まず一つ目。「抗がん剤が効かない時」。当たり前ではあるが、そのがん細胞に、何%の確率で効き目があるか、データによって医師は判断する。カミさんの場合、その%を教えてもらえなかった。聞けば教えてもらえたのかもしれない。だが、もし30%などという数字だったら、不安に押し潰されていたかもしれない。いや、治療しなかったかもしれない。物事はすべて知ることが正しいとも限らないのだ。二つ目は、「効かなくなった時」。効果があっても、6~8か月程度と聞いていた。その期間が「延命」ということになる。過ぎれば再びがんが増殖し始める。そして「死」。

さて問題なのが三つ目だ。「副作用が強くて抗がん剤治療ができなくなった時」である。人によって差異があるという。実は、これが一番やっかいだ。抗がん剤治療を受ける前には、必ず毎回血液検査を行い、白血球や好中球など免疫力が低下していないかチェックする。いくら当人が体調が良いと感じていても、数値が低ければその日の治療は取りやめになる。毎回、待合室では「ああ~ダメやった」という他の患者さんの溜息が聞こえてくる。それが続くか、著しく低くなった時が、「あきらめる」時なのだ。

そして最も悩むのが、副作用が辛くて耐えられなくなった時である。カミさんに何度も訴えられた。「もう嫌だ」「止めたい」「ねえ、止めてもいい」・・・。「止めてどうするの?」と尋ね返し、ケンカになる。「止める」とは「死ぬ」ということなのだ。それは二人とも承知している。だから悶える。続けるのは苦しい。生きるのも苦しい。抗がん剤治療とは、そういう究極の選択の上にある。

問題なのは、すべてやってみないとわからないということ。途中で「苦しいからあの時点に遡ってやり直す」ことはではできないのだ。