第22回 中国鍼でみるみる間に回復

不思議だった。あんなに医者嫌い、ましてや鍼治療なんて毛嫌いしていたカミさんが、茶屋ヶ坂東洋医学研究院の項一雅子先生が「やってみますか?」と尋ねると、素直に横になった。私も五十肩になった時、鍼治療を受けたことがあった。ずいぶん辛抱強く通い、効果はあったものの劇的というわけではなかった。それだけに半信半疑だった。なにしろ相手は、がんである。

項一先生がカバンから取り出した鍼を見てギョッとした。長いのだ。それが中国鍼だという。頭のてっぺんから足まで全身に打っていく。そしてしばらく放置。その間に話を聞いた。中国では大きな総合病院に中に、内科や外科と並列して鍼灸科があるのだという。そして、乳がんの患者は手術や放射線、抗がん剤治療と同時に、鍼灸の治療も受けるのが当たり前になっているという。

「西洋の医学だけでも、東洋の医学だけでもダメです。両方同時にすることが大切です」とのこと。「だまされたと思って、12回鍼治療してください」と言われたが、何しろ衰弱して外出するのもしんどい状態だ。「通院できませせん」と言うと「うちは往診はやってません。でも、ご主人の奥さんに対する愛情にほだされました。特別に週に2度、診察時間外に来ます」と往診していただけることになった。

さて、項一先生が帰って二時間後のことだ。カミさんが「あっ」と言い、トイレに起き上がった。七日ぶりに大量の便がツルリと出た。二人して小躍りした。その後の夕食時、「なんだか少し味が戻った気がする」と言い出す。さらに四六時中しびれて冷たい脚が、ポッと温かくなったとも。まだある。その晩、ぐっすりと眠れ、フラッシングによる汗も少なくなった。

そこから12回の鍼治療を受ける中、劇的に副作用が軽減していった。そして2月の中頃、13回目からは通院するようになった。なんと15回目頃には「自分で運転してみる」と言い出した。そして桜が咲く頃には、髪も生え始め、味覚が二割ほど戻り、食欲も出てきた。なんと鍼治療の帰り道には、ショッピングモールでランチと買い物を楽しめるまでになっていた。

「でも、抗がん剤は続けなきゃダメ」と念押しされた。鍼は、抗がん剤で身体が弱らないように免疫力を上げる働きがあるという。さらに肝臓、腎臓の機能を上げるため、漢方薬も処方してもらい飲み始めた。「これが中国四千年の歴史か!」と驚いた。